【Mリーグ2018ファイナル】持たざる者は奪われる 三元牌の生んだ悲劇

Mリーグ2018
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「ロン」

その声は、深く、そして少し長く響いた。

アガったのは、トータルトップをひた走るドリブンズの、村上淳。
優勝に更に近づくトップを決定づける大物手だった。

放銃したのは、トータル最下位ABEMASの、多井隆晴。
奇跡の逆転優勝を目指した「最速最強」が、打ち砕かれた瞬間だった。

 

ABEMASが夢見る奇跡

2019年1月7日――。
約2週間の中断を経て、Mリーグレギュラーシーズンが再開した。

この時点でABEMASは-83.5ptの4位。
スタートダッシュに成功し、一時は300ptを超えた貯金をその後の大失速で使い果たしたABEMAS。
後半戦スタート時は、ファイナルステージ進出ボーダーの4位だった。

しかしここから怒涛の多井劇場が始まる。
Mリーグ記録となる11連続連帯、稼いだポイントは実に442.8pt。
まさに奇跡ともいえる勝ちっぷりで、ABEMASをファイナルステージ進出へと導いたのだった。

 

そして2019年3月23日。
また2週間の中断を経て、ファイナルステージが再開した。

ここでもABEMASの立ち位置は4位。
残り12戦で首位ドリブンズとの差は482.6ptと絶望的ともいえる差だ。
ABEMASの逆転優勝には、レギュラーシーズンでの奇跡を、もう一度起こす必要があった。

そんなチーム状況の中で、ファイナルステージ再開後第一戦にABEMASが起用したのは当然この男だった。
入場時には笑顔を見せることも多かった多井選手だが、この日は違う。
胸に手を当て、深呼吸をしながら入場。
この1戦の重要さを物語る表情だ。

運命の南3局

そんな重要な1戦の南3局、悲劇は起こった。

トップ目に立つのはドリブンズ、村上選手。
対する多井選手はトップと9000点差の2着目。
トータル首位のドリブンズにこのままトップを取らせるわけにはいかない。
残り2局で必ず9000点差をまくる必要がある。

そんな1局での親番、村上選手の配牌。
白発がトイツで、中も1枚。
ドラこそないものの、大物手を予感させる好配牌だ。
村上選手はチャンタやホンイツも見据え、5mから打ち出した。

対する多井選手の配牌。
ドラ受けと発のトイツはあるものの、重たい手だ。
この局の第一目標は、満貫をツモり、村上選手をまくってオーラスを迎えること。
こちらもホンイツ、789の三色といった手役を意識しつつ2pを第一打とした。

好配牌を手にした村上選手はツモにも恵まれた。

赤5p、7pとツモって3巡目には1シャンテン。
ここから村上選手は打3sとした。
14s、白発が入って面前テンパイならリーチ。
それより先に中を持ってくれば、ホンイツ小三元に渡る目を残す、リーチと打点を重視する村上選手らしい一打だ。

 

そして、運命の4巡目が訪れる。

 

すぐに中を持ってきて打3s。
更に同巡。

多井選手が白を持ってくる。
ホンイツを見て、打9p。

更に更に同巡。
ドラが重なった亜樹選手から中が出て、村上選手テンパイ。

“詰み”である。
この局でキー牌となった三元牌。
運命の4巡目に、三元牌は村上選手があがるように、そして多井選手が打つように並んでいた。

 

ここで、村上選手の捨て牌に注目してみよう。
5m、7s、3sと切り出し、更に打3sの後中をポンして打2s。
全て手出しだ。
つまり、手の内の2s3s3sという強いターツを全て切ったことになる。

更に中を1枚目からポンしたのはMリーガーの中でも随一の面前派、村上選手。
これはもう要警戒というレベルではない。
ポンテンの満貫以上の手が入っていても全くおかしくない状態だ。
長いリーグ戦であれば、守備意識の高い多井選手ならベタオリを選択しただろう。

しかしである――。
ABEMASは500pt近い差を追う立場。
「持たざる者」だった。
ここでドリブンズにトップを取られるわけにはいかない。
2着目の自分がトップを取らなくてはならない。

数巡後、多井選手は実に嫌そうに、テンパイ牌を持ってきた。

369s発の4面張テンパイ。
とはいえ、字牌が高く、3sが3枚、6sが2枚、9sが3枚見えている。
更に亜樹プロからも6p切りリーチが入っている。
打ち出される牌は生牌の白だ。
分のいい勝負とは思えない。

しかしである――。
「持たざる者」に取れる選択肢は、白を打ち出して戦う事しかなかった。

唇を噛みしめる多井プロ。
ABEMAS逆転優勝という「奇跡」が夢へと消えた事を、彼自身が誰よりも分かっていた。

先行有利という麻雀の絶対原則

持てる者はさらに与えられ、持たざる者はさらに奪われるであろう
(聖書 マタイ25,29より引用)

麻雀は先行有利のゲームだ。
ポイント・点棒を持っていれば選択肢に恵まれる。
逆に追う立場になると、リスクを取って攻めるしかない。

この絶対原則には、どんな強者でもあらがうことはできない。
それが現役最多タイトルホルダー、多井隆晴でも、だ。

 

多井選手はとあるインタビューで、こう語った。

「僕はたくさんのタイトルを取ってきたが、それ以上にたくさん負けてきた。
その負けたときの打牌の積み重ねで、ここまで強くなることができた」

 

ほぼ優勝の目が断たれたこの状況で、多井選手はどのような闘牌を見せてくれるのだろうか。
息詰まる優勝争いの片隅で、脇役となった多井選手の矜持が見られることを期待したい。

 

(当記事の対局画像は、AbemaTV 大和証券Mリーグ2018より引用しています)

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